田力本願のアカウンタビィリティー

 農薬を使わず、肥料も使わず育てる「田力本願」の米・・・

    それにしても、本当にこんな方法で稲作りが可能なのか???

 このような疑問を多数の方から頂いたため、このHPを借り、少しずつその疑問にお答えすることにしました。「他力本願」ではない「田力本願」の米、その理論と実践、そして効果の「客観評価」について連載形式で解説していきます。

  田力本願のアカウンタビリティー第1回 「農薬を使わない雑草対策について」

 「農薬を使わない稲作り」と言っても、農薬にはいろいろな種類があります。そのため、まずはその利用目的から農薬を大きく三つに分類してみます。

   一つ目は、雑草対策のための農薬
   二つ目は、害虫対策のための農薬
   三つ目は、稲の病害対策のための農薬

 稲作りをするためには雑草を抑え、害虫を寄せ付けず、そして病気にもかからないよう農薬を使う必要がありますが、田力本願の稲作では、これら農薬を一切使わない稲作りを平成15年から継続しています。なぜこれが可能であるか順を追って説明していきますが、とりあえず今回は、農薬を使わない雑草対策について説明いたします。

[1]農薬を使わない雑草対策の理論
 農薬を使う、使わずとにかかわらず、雑草対策を考えるためには、なによりもまず雑草それぞれの性質を知ることが必要です。そのため雑草対策の視点から田んぼに生える主な雑草について分類してみることにします。

 (雑草の発芽の特徴からの分類)
湿性雑草   じめじめした田んぼのような場所で好んで発芽するが、発芽に酸素を必要とする雑草。このため田んぼに一定以上の水深があり、地中が酸素欠乏状態(還元状態)になると発芽できなくなる。この雑草で代表的なものにヒエ、イボクサがある。ちなみに「稲」も湿性雑草と同じ性質を持っています。
水性雑草  発芽に酸素を必要とせず、地中が酸素欠乏状態であっても発芽可能な雑草。代表的なものにコナギ、ホタルイ、クログワイがあります。特にコナギは農薬を使わない有機水稲栽培の大敵です。
 
 (雑草の経年的特徴からの分類)
一年生雑草  種子から発芽し、その根茎が冬を越すことの出来ない雑草。ヒエ、イボクサ、コナギなどがこれに該当します。ちなみに稲も、この雑草に分類されます。
多年生雑草  根茎が冬を越し、その根茎から多年に渡って発芽してくる雑草。ホタルイ、クログワイなどです。

 以上雑草を特徴毎に分類してみました。今度は、それら特徴から、どのように雑草対策を行っていくか説明いたします。

(雑草対策−1)発芽の抑制、水田の水を深くする。(深水管理、早期湛水)
 湿性雑草は酸素がなければ発芽できませんので、水田の水を深くし、土中に酸素が届かないようにするだけで雑草の発芽を抑制することができます。

(雑草対策−2)発芽の抑制、水田の水の酸素量を少なくする。(有機肥料投入)
 有機肥料には水分中の酸素を消費する性質があります。この性質を利用して有機肥料を田んぼに投入し、水田の水に溶けている酸素を少なくすれば水を深くしなくても湿性雑草の種子発芽を抑制できます。

(雑草対策−3)発芽の抑制、田面をマルチで覆う。(紙マルチ、トロトロ層マルチ)
 種子で発芽する一年生の雑草は光を受け覚醒して発芽します。このため種子が潜伏する土中に光りが届かないよう、田面を紙や微粒な土砂(トロトロ層、後で解説)などのマルチ(被覆材)で覆えば、雑草の発芽を抑制できます。

(雑草対策−4)発芽活着の阻害、水田の水を深くする。(深水管理)
 植物の種子は水より比重が大きく水に沈みますが、発芽すると比重が水より小さくなります。そのため水田の水を深くすると、それだけ芽に大きな浮力が作用し、根が土に固定しようとする力(活着)が浮力により阻害されてしまいます。特に発芽したての芽は根が小さく活着力も弱いので、芽が水に浮いてしまうこともありますから、田んぼの水を深くするだけで雑草を抑制することができます。これは一年生雑草に有効です。

(雑草対策−5)発芽活着の阻害、発芽の根を腐らせる。(有機肥料投入)
 有機肥料を田んぼの水に投入すると有機酸という物質が発生します。この有機酸は発芽の根を腐食させる効果があり、一年生雑草を抑制できます。

(雑草対策−6)発芽成長の阻害、発芽を土に埋める(代かき、イトミミズ効果)
 田植え直前に田んぼの土を攪拌すると、雑草の芽は土に埋まり成長できなくなります。一年生雑草に有効です。

(雑草対策−7)発芽成長の阻害、水田水を濁らせる。(有機肥料投入、イトミミズ効果)
 種子で発芽する雑草は発芽エネルギーを小さな種子にしか頼ることができず、そしてそのエネルギーもすぐに使い果たすため、成長を持続するためには光が必要になってきます。そのため、水を濁らせ光から発芽を遮断できれば、ある程度の雑草抑制が期待できそうです。これも一年生雑草に有効です。

(雑草対策−8)成長雑草の除去、雑草を抜き取る(手取り、除草機による除草)
 成長した雑草は根をしっかりと土に張り巡らせているため、手取りや除草機などで除草します。これは一年生雑草に有効ですが、多年生雑草には逆に分株を勢いづかせる結果になることもあるようです。

(雑草対策−9)根茎の防除、水田の土を反転させる。(深耕起)
 根茎から発芽する雑草は根茎に多量の養分を備えているため、芽の成長にそれほど光を必要としません。こういった雑草は稲刈り後、田んぼの土を掘り起こして反転させ、根茎を冬の空気にさらすことで枯死させ防除する方法もあります。(多年生雑草対策)

 以上、9種類の「農薬を使わない雑草対策」について記してみました。これら対策の中には、十分に実績があるもの、実績は少ないが理論的には可能と考えられるもの、それぞれあります。また、どれかを行うことで他の対策にも相乗的に効果を与えたり、或いは支障を及ぼすものもあります。さらに、これらは雑草の生育過程それぞれの瞬間で効果を発揮するため、対策を施す時期も重要となってきます。
 田力本願稲作では、これら対策のうち、できるだけ田んぼに手をかけず自然のままにし、そして肥料も使わない方法で雑草対策を実施してみました。それでは、次に田力本願稲作の「農薬を使わない雑草対策」の実践について解説いたします。

[2]農薬を使わない雑草対策の実践

(1)冬期から継続して田んぼに水を張る。11月〜
 通常は田んぼを乾かす時期の冬期から田んぼに水を張ります。これは長期間田んぼを冠水状態にすることで、田んぼの表面に粒子の微細な土壌(トロトロ層)を堆積させることを目的に行います。田んぼを冠水すると、この状態を好むイトミミズが土を吸い上げ、それがトロトロ層となって堆積していきます。
 イトミミズは微細な土を吸い上げトロトロ層を作りますが、雑草の種子は大きくて吸い上げることができないため、結果としてトロトロ層の下に雑草の種子が埋もれていくことになります。これにより雑草対策−3の効果が発現されることになります。また冬期から田んぼに水を張っておくとイトミミズも涵養でき、その後の雑草対策に大きな効果を発揮します。

(2)部分的に代かきを行う。4月中旬
 4月になり気温が高くなると、いよいよ雑草の一部が発芽してきます。この時期の雑草は畦から根茎を田んぼに侵入させ発芽してくるものが大部分です。そのため、畦沿いを2m程度、トラクターで土を攪拌する機械(ロータリー)を引っ張りながら(代かき)、除草します。(雑草対策−6)

(3)田んぼを深水にする。5月中旬〜
 田んぼを深水にすることで、雑草対策1,4の効果が得られます。と言うと簡単ですが、田んぼを深水にするためには、余分に水を入れる以外にも、いろいろな工夫が必要になってきます。なにより水を効率良く貯留するためには、田んぼの畦がしっかりしていなければなりません。そのため、春と秋に畦の補修をしておきます。
 また、苗も大きくしっかりしたものを育てておく必要があります。雑草対策4は、雑草の芽に浮力を与えて活着を阻害する対策でしたが、これは雑草だけでなく、稲の苗についても同じことが言えます。特に田力本願稲作の田んぼの表面には、粒子の微細なトロトロ層が覆っています。粒子が微細で、流動性も著しい土ですから、それだけ雑草の芽の活着阻害に大きな効果が期待できますが、下手をすると苗の活着も阻害することになります。そのためしっかりした苗でなければ、田植ができなくなってしまいます。
 田力本願の稲作では手間をかけ、大きく丈夫に育てた苗を用意します。そして田植えでは、できるだけ苗を深く植えるように注意して行います。こうすることで、始めて田んぼを深水にしても田植えに支障がなく、効果的に雑草対策を行うことができます。

(4)代かきを行わず田植えを行う。5月下旬
 通常、田植え直前になると田んぼ全面を代かき(表面の土を攪拌する。)します。雑草対策の視点から考えると代かきには雑草対策−6の効果があります。しかし代かきは土を攪拌するため、冬期から堆積してきたトロトロ層を破壊し、地中に沈んでいた雑草の種子を田面に浮かび上がらせる効果もあります。これは雑草対策−1や3の効果を損ねる結果をもたらします。そのため田力本願の稲作では基本的に代掻きを行わないようにしています。
 もっとも代かきを行わないためには、それなりに工夫も必要になってきます。というのは、代かきには土を攪拌することで土を柔らかくし、苗が土に刺さりやすくする目的もあるからです。そのため代かきをしない場合、何らかの方法で田植えに支障が無い程度に土を柔らかくする必要があります。田力本願稲作は冬から冠水することで、田んぼ表面に柔らかいトロトロ層を堆積させております。このため田植えに支障をきたしておりません。

(5)勢いを増すイトミミズ、5月中旬〜6月下旬
 5月中旬頃から田植えと時期を合わせるようにコナギ、ヒエ、ホタルイ、クログワイ、イボクサなどの代表的水田雑草が発芽してきます。しかし、この頃から田んぼではイトミミズが盛大に繁殖してきます。下のグラフが平成16年に調査したイトミミズの繁殖傾向です。
 イトミミズは多面的に除草対策効果をもたらします。
一番右側が一般的農法の田んぼの水、それ以外は「田力本願」
農法の田んぼの水(平成16年6月)

 一つ目は、雑草対策−6の効果です。前にも説明しましたがイトミミズは田んぼの土壌を吸い上げ、それを田んぼの表面吐き出す性質があります。5月、6月は主な水田雑草が発芽してくる時期ですが、それと同時にイトミミズの活動が活発になる時期でもあります。そのため雑草の発芽は少なからずイトミミズにより阻害されていると考えられます。
 
6月、サヤミドロの状況
また、イトミミズは水田の水を濁らす効果も持っているようです。これは、イトミミズが地中のリン酸分を水田水に運び出すため、これを栄養にする細菌類が水田水に増殖するためと言われています。

 さらに、リン酸が増えると細菌だけでなくサヤミドロなどの浮遊雑草も増殖します。こういった浮遊雑草は田面へ日光が届くのを遮断します。このようなイトミミズの効果により、雑草対策−7の効果が発現されます。


(6)手取除草、6月中旬
 平成16年は一度だけ手取り除草を行いました。時間にすると田んぼ1000m2当たり30分/人程度です。戦前は6月に3回も手取り除草をしたとのことです。また知り合いの無農薬水田を手伝った経験から言うと、1000m2当たり12時間/人かけて手取り除草しなければ間に合いませんでした。そのため、田力本願の稲作は、それだけ手取り除草を軽減できる農法と言えます。

[2]農薬を使わない雑草対策の評価
 さて、以上このようにして行った雑草対策ですが、実際の効果はどの程度あったのでしょうか、以下に、私の経営する代表的な田んぼの雑草状況図を示します。
 上記水田はおおよそ100mm×100mの大きさ、水田内に区切るメッシュは約15m×15m、一つのメッシュに5個以上の雑草マークがある場所は稲の葉色が薄く、また分けつも少ない傾向があったので、収穫量に少なからず影響を与えているようであった。(平成16年6月調査結果)

 結果から言いますと、いろいろな理論で雑草対策を行ったものの、それでもある程度は雑草が繁茂してきました。傾向的に言うと畦周辺に雑草が多いようです。これは4月に畦沿いを代掻きしたこと、また畦沿いは水深を確保し難く、雑草対策−1の効果が十分に発現されなかったことが大きな原因のように感じられます。
 ちなみに田力本願の稲作では水性雑草でも多年生雑草(ホタルイ、クログワイ)の対策を施しておりません。幸いにして、これら雑草は年ごとの増殖速度があまり大きくないので、現時点ではそけほど問題となっておりませんが、今後、こういった雑草が増えてくるようであれば、稲刈り後に田んぼを深耕する雑草対策−9などの対策を考えていく必要もあるようです。
  
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